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焦げた鍋底を磨く女のブログ

段ボールの中で

4087747174蝶のゆくえ
橋本 治
集英社 2004-11
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一話目を読んで号泣した。しかも嗚咽をあげながら。
この話のタイトルはなぜ『ふらんだーすの犬』なんだろう。
ネロとパトラッシュの話もたしかに悲しい。でも『フランダースの犬』のラストは遠い世界の出来事のようで、涙を流すのは甘美な娯楽でもある。
この本に収められている、実の母親に殺される子供を描いた『ふらんだーすの犬』は、遠い世界の出来事じゃなくてわたしのいるココと地続きだ。それは現代を舞台にした物語だからという意味でではなく。
「過去を漂白しなくてはならない」と思った母親も、「子供が子供を見るような目で妻の連れ子を見た」義理の父親も、「お母さんにやさしくされたい」と思った子供も、全部自分の中にあって、だから心をえぐられるように辛く悲しい。
橋本治の「普通の人々」を描いた小説は「どこか遠い世界の出来事だから大丈夫」と思っていたことを「これはあなたのことでもあるんですよ」と、優しく分かりやすく丁寧に執拗に教えてくれるから危険だ。
段ボールの中に見たくないものを入れて、これで大丈夫と安心したのはあなたで、段ボールの中で悪臭を放ちながら静かに弱って死んでいくのもあなただ。そして、その段ボールを開けることが出来るのもあなたしかいない。
ということを、この一連の短編集は伝えているような気がする。
「小説」とはこういうもののことを指すのだろうと思う。
| 2005.11.13 Sunday 09:28 | Book | comments (0) | trackback (1) |
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